「腰が痛いから、腰を揉む」
もちろん、それで心地よく感じたり、身体が楽になったりすることもあります。
でも、何度も腰が重くなる。
腰をほぐしても、しばらくするとまた気になってくる。
そんなときは少し視点を広げて、
「本当に腰だけを見ればいいのだろうか?」
と考えてみるのもひとつです。
私たちの身体は、筋肉、骨、関節だけでできているわけではありません。
その内側には腸や腎臓をはじめとした内臓があり、血管や神経、筋膜などを介しながら、それぞれがひとつの身体の中で関わり合っています。
今回は「腰痛」を入口に、腎臓や腸、内臓調整、そして感情との関係まで、少し広い視点から身体を眺めてみたいと思います。
腰痛というと、
- 腰の筋肉が硬い
- 姿勢が悪い
- 骨盤が歪んでいる
- 腹筋や背筋が弱い
といった原因を思い浮かべる方も多いかもしれません。
もちろん、筋肉や関節、姿勢、身体の使い方は大切な要素です。
一方で、腰の周辺にはさまざまな組織が存在しています。
そのため身体をひとつのつながりとして考えるなら、
「腰そのものに負担がかかった背景には何があるのか?」
という視点も大切になります。
そこで注目したいもののひとつが、内臓と身体の関係です。
腎臓は、お腹のかなり奥側、背中に近い位置にあります。
左右の腎臓は背骨の両側付近に位置し、その周囲には横隔膜や大腰筋、筋膜など、姿勢や呼吸、腰の動きとも関係する構造があります。
つまり解剖学的に見ても、
「腰」と「腎臓周辺」は、まったく別々の世界ではありません。
オステオパシーでは、筋肉や関節だけでなく、こうした内臓を含めた身体全体の可動性や組織同士のつながりを観察することがあります。
たとえば呼吸すると、横隔膜は上下します。
その動きに伴って、お腹の中の臓器もわずかに動きます。
人間の身体は、一見止まっているように見える内臓も含めて、さまざまな組織が互いに影響しながら動いているのです。
だからこそ腰を見るときにも、
「腰の筋肉はどうか?」
だけではなく、
「呼吸はどうだろう?」
「お腹周りの緊張は?」
「身体全体に動きやすさはあるだろうか?」
と視野を広げてみることがあります。
もうひとつ注目したいのが、腸です。
腸は腹腔の中で大きなスペースを占めています。
そしてお腹には腸だけでなく、腹筋群、横隔膜、骨盤底筋など、体幹を支えるために働くさまざまな構造があります。
たとえば、
長時間座りっぱなしだったり、
呼吸が浅くなっていたり、
お腹に力が入り続けていたり。
こうした状態が続けば、「腰」だけでなく腹部を含めた体幹全体の使い方も変化します。
反対に、
「腰がつらいから腰だけを伸ばす」
のではなく、
呼吸やお腹の動きまで含めて身体を観察してみる。
そんな視点を持つと、これまで気づかなかった自分の身体のクセが見えてくることもあります。
オステオパシーには、身体を部分ではなく「ひとつのまとまり」として捉える考え方があります。
そこで行われるアプローチのひとつが、いわゆる内臓調整(内臓への手技的アプローチ)です。
これは内臓の病気を治療する、という意味ではありません。
身体表面からやさしく触れながら、
- 腹部周辺の緊張
- 呼吸に伴う動き
- 筋膜など周囲組織とのつながり
- 身体全体の動きやバランス
などを観察していきます。
腰がつらいからといって、必ず腰だけに施術するとは限らない。
身体をひとつながりとして観察していくことは、当サロンでも大切にしている考え方です。
ここからもう一段、視点を広げてみましょう。
「緊張するとお腹が痛くなる」
「不安になると食欲がなくなる」
「ホッとすると急にお腹が空いてくる」
こんな経験はないでしょうか。
心と身体は、完全に切り離されているわけではありません。
ストレスや感情の変化に伴って、自律神経やホルモン、呼吸、筋緊張、消化管の働きなどにも変化が起こります。
つまり、
感情が身体に表れること自体は、それほど不思議なことではないのです。
逆に身体の状態が、気分や感情に影響することもあります。
「心→身体」だけでも、
「身体→心」だけでもない。
互いに影響し合っている。
これは東洋医学で古くから大切にされてきた**「心身一如」**という考え方とも重なります。
東洋医学・陰陽五行では、五臓と感情との関係についても考えます。
そのひとつとして、
腎―恐
という対応があります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
東洋医学でいう「腎」は、西洋医学における臓器としての腎臓と完全に同じものではありません。
そのため、
「恐怖を感じると腎臓が悪くなる」
「腎臓が悪いから不安になる」
と単純に結びつけるものではありません。
東洋医学では、身体・精神・生命活動をまとめて観察するためのひとつの体系として、「腎」という概念を捉えています。
こうした違いを理解したうえで東洋医学を眺めてみると、
身体の状態だけでなく、その人がどんな毎日を過ごしているのかまで含めて考える
という面白さが見えてきます。
現代では「脳腸相関」という言葉も知られるようになりました。
脳と腸は神経系や内分泌系、免疫系などを介して双方向に関係しています。
強いストレスを感じたときにお腹の調子が変わるのも、その一例です。
そう考えると、
腰の緊張、
お腹の緊張、
呼吸、
腸の状態、
ストレス、
感情。
これらを最初からバラバラの問題として扱う必要はないのかもしれません。
「今、自分の身体全体では何が起きているんだろう?」
そんなふうに観察してみることが、身体との付き合い方を変えるきっかけになることがあります。
「感情のデトックス」という言葉を聞くことがあります。
ただ、感情は身体に溜まった毒素のように、物理的に排出されるものではありません。
むしろ大切なのは、
悲しいなら悲しい。
怖いなら怖い。
疲れているなら疲れている。
そうした自分の状態に気づき、必要以上に押さえ込まず、感じられる余白をつくることではないでしょうか。
身体への施術によってリラックスしたとき、
「なぜかわからないけれどホッとした」
「身体だけでなく気持ちまで軽く感じた」
ということもあります。
それを「感情のデトックス」と表現するのであれば、
何か悪いものを身体から追い出すというより、
握りしめていたものを少し緩められる状態をつくること
と考えると、当サロンの考え方にも近いように思います。
腰が痛い。
最初の入口は、それだけでもいいと思います。
そこから、
腰の筋肉はどうだろう。
股関節は?
お腹は?
呼吸は?
腎臓や腸の周辺は?
最近どんな生活をしている?
気持ちに余裕はある?
少しずつ視野を広げていく。
すると「腰痛」というひとつの症状が、
今の自分の身体や暮らしを知る入口
になることがあります。
身体は、パーツの集合体ではありません。
筋肉も、骨も、内臓も、神経も、呼吸も、そして心も。
さまざまなものが関係しながら、ひとりの人間をつくっています。
だからこそ、
腰だけではなく、その人全体を見る。
オステオパシーや東洋医学、そして心身一如という考え方には、そんな共通点があります。
身体から心へ。
心から身体へ。
どちらか一方だけを見るのではなく、その間にあるつながりにも目を向けてみる。
それもまた、心と身体に少し「スペース」をつくることにつながっていくのかもしれません。
※腰痛にはさまざまな原因があります。強い痛み、発熱、血尿、排尿の異常、腹部症状、脚の強いしびれや筋力低下などを伴う場合や、急激に症状が現れた場合などは、セルフケアや施術だけで判断せず、医療機関への相談をご検討ください。