「なんだか呼吸が浅い気がする」
「深呼吸しようとしても、うまく吸えない」
「気づくと息を止めるように仕事をしている」
そんなことはありませんか?
呼吸が浅いと感じると、
「もっと大きく息を吸わなきゃ」
と思うこともあるかもしれません。
もちろん、ゆっくり呼吸することで心地よさを感じることもあります。
でも、ここで少し視点を変えてみましょう。
そもそも、なぜ今の身体は“浅い呼吸”になっているのでしょうか?
呼吸は肺だけで行われているものではありません。
肋骨、背骨、横隔膜、腹部、姿勢、筋肉の緊張、そして自律神経や心理状態。
さまざまなものが関わりながら、私たちは一日中、ほとんど無意識に呼吸を続けています。
今回は「呼吸が浅い」という感覚を入口に、身体全体のつながりを眺めてみたいと思います。
呼吸は「肺だけ」の仕事ではない
呼吸というと、まず「肺」を思い浮かべると思います。
しかし肺そのものが筋肉のように大きく伸び縮みして、空気を吸い込んでいるわけではありません。
呼吸では、横隔膜や肋間筋などが働き、胸郭の容積が変化することで肺に空気が出入りします。
なかでも重要なのが、横隔膜です。
横隔膜は胸とお腹の間にある、ドーム状の筋肉。
息を吸うときには横隔膜が収縮して下がり、胸郭が広がりやすくなります。
息を吐くと、横隔膜はゆるみながら元の位置へ戻っていきます。
つまり呼吸は、
肺だけではなく、胸郭や筋肉、身体の動きによって生まれている
ともいえるのです。
姿勢が変われば、呼吸の仕方も変わる
試しに、身体を大きく丸めた状態で深呼吸してみてください。
次に、無理のない範囲で身体を起こして呼吸してみます。
少し呼吸の入り方が違って感じられるかもしれません。
これは、
「猫背だから呼吸が悪い」
という単純な話ではありません。
姿勢が変われば、肋骨や背骨、横隔膜、腹部などの位置関係も変わります。
そして呼吸するとき、肋骨は完全に固定されているわけではなく、小さく動いています。
だからこそ、
身体がどのような姿勢にあるかによって、使いやすい呼吸のパターンも変化する
と考えることができます。
大切なのは「正しい姿勢にしなければ」と身体を固めることではありません。
むしろ、
「今の姿勢では、どんな呼吸をしているだろう?」
と観察してみること。
それだけでも、自分の身体について新しい発見があるかもしれません。
「呼吸が浅い」とき、首や肩が頑張っていることも
呼吸に関わる筋肉は、横隔膜だけではありません。
状況によっては首や胸周りの筋肉も呼吸を助けます。
たとえば運動したあと。
「ハァ、ハァ」と呼吸しながら肩が上下することがありますよね。
これは身体がより多くの換気を必要とする状況で、呼吸を助ける筋肉も働いている状態です。
一方、日常生活でも身体の状態によっては、首や肩周辺の筋肉が呼吸に関わる場面があります。
すると、
「肩が凝っているから呼吸しにくい」
という一方向だけではなく、
姿勢や呼吸の仕方と、首・肩周りの緊張が互いに関係している
という見方もできます。
肩こりと呼吸。
一見別々の問題に見えても、身体の中では完全に切り離されているわけではないのですね。
横隔膜の下には「内臓」がある
ここでもう少し身体の内側へ目を向けてみましょう。
横隔膜のすぐ下には、肝臓や胃などの腹部臓器があります。
そして呼吸によって横隔膜が上下すると、それに伴って腹部にも圧の変化や動きが生じます。
息を吸う。
息を吐く。
たったそれだけのことでも、
胸郭だけではなく、お腹を含めた身体の中ではさまざまな変化が起きています。
オステオパシーでは、身体を筋肉や骨だけでなく、内臓や筋膜なども含めたひとつのまとまりとして捉える考え方があります。
そのため呼吸を見るときにも、
肋骨だけ。
横隔膜だけ。
お腹だけ。
と完全に分けて考えるのではなく、
「この身体全体の中で、呼吸はどのように行われているのだろう?」
と観察することがあります。
呼吸と自律神経の関係
呼吸のおもしろいところは、
無意識にも行われるし、意識的にも変えられる
ということです。
眠っている間も、私たちは呼吸しています。
一方で、
「ゆっくり吐こう」
「少し深く吸ってみよう」
と、自分の意思である程度調整することもできます。
そして呼吸と自律神経の働きは、互いに無関係ではありません。
緊張した場面では呼吸が速くなったり、浅く感じたりすることがあります。
反対に、安心できる場所でホッとすると、自然と「ふぅー」と長い息が出ることもあります。
ここでも、
「自律神経が乱れているから呼吸が浅い」
と単純に決めるのではなく、
呼吸・身体・心理状態が互いに影響し合っている
と考えるほうが自然です。
心が緊張すると、呼吸も変わる
人前で話す直前。
仕事に集中しているとき。
不安なことを考えているとき。
時間に追われているとき。
ふと気づくと、
肩に力が入り、
顎を噛みしめ、
呼吸まで小さくなっていた。
そんな経験がある方もいるかもしれません。
心の状態は、身体と切り離されたものではありません。
東洋医学には、心と身体をひとつながりのものとして捉える**「心身一如」**という考え方があります。
呼吸は、その「心と身体の間」にあるものを観察しやすい存在なのかもしれません。
忙しくなったら呼吸が変わる。
安心すると呼吸も変わる。
身体が緊張すると呼吸が変わり、
呼吸が変化すると身体の感覚も変わる。
そんなふうに、心と身体は絶えず影響し合っています。
「深く吸わなきゃ」が新しい緊張になることも
「呼吸が浅いなら、深呼吸をすればいい」
確かに、それが心地よい場合もあります。
ただ、
「もっと吸わなきゃ」
「お腹を膨らませなきゃ」
「正しい呼吸をしなきゃ」
と頑張りすぎると、
逆に身体へ力が入ってしまうこともあります。
これは前回の記事で取り上げた、
「力を抜かなきゃ」と頑張るほど、力が入ってしまう
という話にも似ています。
呼吸も、
「浅い=悪い」
とすぐに決めつけなくてもいいのかもしれません。
身体は、そのときの活動や環境に合わせて呼吸を変化させています。
だからまずは、
直すより、気づいてみる。
そこから始めてみてもいいと思います。
まず、自分の呼吸を観察してみる
呼吸法を始める前に、
今の呼吸を少しだけ観察してみましょう。
楽な姿勢になって、
息を吸う。
息を吐く。
無理に変える必要はありません。
ただ、
「どこが動いているかな?」
と感じてみます。
胸が動くのか。
お腹が動くのか。
背中にも動きを感じるのか。
左右で違いがあるのか。
吸いやすいのか。
吐きやすいのか。
そして、
「どんなときに呼吸が浅くなるんだろう?」
と日常の中でも観察してみる。
仕事中。
スマートフォンを見ているとき。
人と話しているとき。
考え事をしているとき。
リラックスしているとき。
呼吸を観察すると、単に肺の動きだけでなく、
自分が普段どんなふうに身体を使い、どんなふうに過ごしているのか
まで見えてくることがあります。
呼吸を「深くする」より、呼吸できるスペースを
呼吸が浅いと感じたとき、
すぐに深くしようとしなくてもいい。
まず、
なぜ今、呼吸が浅く感じるのだろう?
と身体に目を向けてみる。
姿勢かもしれない。
身体の緊張かもしれない。
呼吸に関わる身体の動きかもしれない。
忙しさや心理的な緊張が関係していることもあるでしょう。
ひとつだけに原因を決める必要はありません。
身体はさまざまなものがつながりながら、その瞬間の状態をつくっています。
だから、
呼吸を無理に深くするのではなく、自然に呼吸できるスペースをつくる。
身体にも。
心にも。
少し余裕が生まれたとき、
呼吸は「変えよう」としなくても、自然と変化していくことがあります。
呼吸は一日に何度も繰り返している、とても身近な身体の動きです。
だからこそ、
自分の呼吸に気づくことは、
今の自分に気づくこと
でもあるのかもしれません。
今日、ふとした瞬間に一度だけでも、
自分がどんな呼吸をしているのか、
静かに感じてみてはいかがでしょうか。